アパ快進撃の経営戦略
「逆張り」で飛躍するAPAの挑戦 鶴蒔 靖夫 著
APAグループの全容が、著者鶴蒔靖夫氏によって今、明らかにされます。
全くの徒手空拳からスタートし、今日のAPAグループを育て上げるに至ったその原動力は何なのか。その迫力ある経営ぶりを、是非この著書を一読することによってあなたも体感してみませんか。
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はじめに
この本の製作のきっかけは、ある日手元に届いた一冊の本との出合いからであった。届いた本のタイトルは「世紀末日本を問う」。著者の名前は、藤誠志とあった。
藤誠志とは誰だ? というのが、私の正直な感想だった。
長年、評論家という仕事をしている私の元には毎日、新刊書や雑誌が何冊か送られてくる。なかには、これといってみるべきところもない本もないわけではないが、目を通さないことには、どれが駄作でどれが秀作であるかわからない。物書きのはしくれとして秀作に出合う喜びは、何にも変えがたいものだ。そこで私は多忙な時間を縫って、送られてきた本、雑誌は一冊残らず目を通すことにしている。正直にいえば、「世紀末日本を問う」を手に取ったとき、初めはそう大きな期待はもっていなかったというのが偽らざるところだ。だが、数ページほど読み進めるうちに、私はこの本にすっかりはまってしまっていた。
「世紀末日本を問う」は、平成5(1993)年から平成9年まで、毎月一回、その時々の日本社会を揺るがせた問題を的確に指摘、かつ今後を予測する展開となっている。たとえば「社会主義とマスコミ」「偏差値教育とTV報道」「フジモリ大統領の決断」……などなど。ユニークなのは、著者自身による評価がミシュランのホテルガイドのように星の数でつけられていることだ。この著者はきわめて自分自身がよくみえる人物らしい。
読み進むうちに、私はただただ、うなるばかりになっていった。原稿は闊達であるし、何より視点が広い。とかく近視眼的な論評が多い日本だが、この本の著者はよほどグローバルな視点をもった人だと鋭く伝わってくる。
巻頭に挿入されたカラー口絵の写真はさらに強烈な吸引力をもっている。L.A.郊外で、ライフル射撃に興じる姿、ホエール・ウオッチングのスナップ、カナダのスキー場、ポルトガルのコインブラの噴水前でのスナップ……。これらの写真は著者・藤誠志の足跡が世界をカバーしていることを物語っていた。何と広範な行動半径をもつ男なのだろう。
やがてひょんなことから私は、藤誠志というのはペンネームであり、その素顔は北陸有数の少壮経営者・元谷外志雄氏であることを知った。
この驚きをなんと形容したらよいのだろう。
元谷氏の高名は、経営評論に携わるものとして私も耳にしていた。元谷氏は、北陸・金沢を中心に破竹の勢いでマンション、オフィスビルの建設などの事業を推し進め、その一方でホテル事業にも進出し、たいへんな成果をあげているAPAグループの代表である。
マンション、オフィスビルは一部社有物件とし、賃貸事業も展開しているが、この賃貸収入だけでも莫大なものであり、保有する資産は同業企業のなかでは全国有数のレベルだろう。
バブル経済が崩壊し景気後退が続いているが、APAはバブル崩壊後、かえって元気で迫力ある事業展開を進めており、デベロッパー事業、ホテル事業、それぞれの分野で目を見張るような快進撃を続けている。その様子はテレビ番組にもしばしば取り上げられている。こういえば、元谷氏をブラウン管でみたと思い出す人も少なくないのではないか。
そのサクセスフルな経営者ぶりと「世紀末日本を問う」の本がぴたりと重なったとき、私のなかから、元谷外志雄(藤誠志)という人物にくめども尽きない興味がとめようもなく噴出してきたのである。
日本経済が混迷のなかに突き進んでしまってからすでに数年。現在まで、不況奪取の出口はみえていない。日本経済は、いまもダッチロール状態を続けている。このまま墜落してしまうのか、それとも再び機首を持ちあげ、新たな浮上のきっかけをつかめるのだろうか。
実際の状況としては、多くの経営者たちは再浮上どころか、現状維持に汲々としている状態である。だが世界の投資家たちのなかには、いまこそチャンスとばかり、日本市場に熱い視線を注いでいる人も少なくない。なぜなら、現在の日本は株価安、土地安であり、投資家にとってはチャンスに満ち満ちているからである。
実際に不動産市場は、総体的には低迷を続けているものの、都心や主要駅の駅前など立地条件のよいところでは密やかに、しかし、むしろ盛んな動きをみせているのである。
元谷氏も、いまは経営者にとって千載一遇のチャンスだといい放つ。そして、その言葉そのままに、賃貸・運用・管理するビル・マンションはすでに358棟でホテル事業部では今年度中に全国主要都市に18ホテルの布陣を整えるという、積極果敢な展開をみせている。
つい先日の4月8日には、金沢駅前徒歩一分という最高の場所に、北陸最大の456室という規模を誇る大ホテルをオープンさせている。その快進撃ぶりをみていると、いま日本経済が不況のまっただなかにあることを忘れてしまいそうになるが、元谷氏にいわせれば、金利は史上最低、土地価格は裁定水準、建築コストも競争激化で低水準にある「三低時代」のいまだからこそ、こうした快進撃ができるというのだ。
この発想は、日本を飛び出し、海外から日本市場をみるという視点に立脚しているからこそ生まれるのだ。元谷氏は、現在の日本が希求してやまないグローバル・スタンダードを満たす、新しいタイプの経営者だといえよう。
元谷氏の経営者としての辣腕ぶりは本書で詳述するが、実は私は、取材を始める前から元谷氏こそグローバル・スタンダードを満たす経営者だと確信していた。その理由は、彼のライフスタイルにある。射撃、カーレース、世界旅行を心ゆくまで楽しんでいる経営者……。
人間、どんな遊び方をしているかをみれば、人生に対する価値観がわかる。元谷氏のようなスケールで、そして闊達に人生を楽しんでいる経営者を私はそう多くは知らない。日本の経営者といえば、緑の料亭といわれるゴルフがせいぜいであろう。これでは世界の経営者と交わったとき、共通のフィールドはビジネスオンリーとなり、深く親しい人間関係の輪は広がっていかない。
さらに、「世紀末日本を問う」を執筆していることからも容易に想像がつくが、元谷氏は政治、経済、軍事から教育問題、女性の生き方、自然、環境、地球の未来にも大きな関心をもっており、それぞれ前向きな姿勢で対処していることがみてとれる。
女性の能力を高く評価しているというこは、ホテル部門の社長を、元谷氏の夫人である元谷芙美子氏が務めていることから十分に察せられるし、地球環境への並々ならぬ関心は、何よりもAPAという社名に象徴されている。
APAとは、Always Pleasant Amenity(いつも気持ちのよい環境を)という言葉の頭文字から取ったものだという。APAーこの社名に込められた精神をそのままに、APAの企業ポリシーは「ヒューマン&エコロジー」に集約されている。
私は勢いづいた。元谷氏のような経営眼をもった経営者が多数輩出されれば、日本は間違いなく、現在の苦境から抜け出し、明るい二十一世紀をめざすことができるはずだ。元谷氏こそ、日本の経済再浮上の牽引車を引く経営者ではないか。
私は、どうしても元谷氏の存在を、そしてその迫力ある経営ぶりを一人でも多くの人に知ってもらいたいと切望するようになっていた。いや、知ってもらわなければならない。そこから新たな経営のヒントや勇気を得て、不況脱出の転機とする経営者は少なくないと確信するからである。
また、元谷氏はまったくの徒手空拳からスタートし、今日のAPAグループを育てあげた、いわばベンチャー企業のはしりである。自分の決断力、実行力、統率力だけを武器に今日まで突き進んできたその軌跡は、二十一世紀の日本を担う多くの若者にとって、何よりの指針となるだろう。
元谷氏自身も教育には深い関心を抱き、ヒューロン大学の理事を務めるなど、すでに教育の場にも身を投じている。そうした意味からもこの本をより多くの若き読者にもぜひ一読してほしいと期待している。
なお、本文中の敬称は略させていただいたことを、ここにお断りしておく。
平成10年5月 鶴蒔 靖夫